「ムダを省き、経済の長期低迷を解消する」と訴え、支持を集めた維新による府政が今年で10年目。大阪府・大阪市は万博・カジノの招致に沸き、W選挙を目前に混迷の極みにある。市民連合高槻・島本連続講座 第6回、立命館大学政策科学部教授 森裕之さんによる「~維新府政10年~ 大阪維新の成長戦略を斬る!」から、大阪維新の経済戦略に焦点をあて、紙面化した。(谷町邦子)
維新発足時の「成長戦略」から変節
大阪維新の会が発足した2010年、大阪府・大阪市による「大阪の成長戦略」では、GDPと比較して府内総生産が低下する長期低落の原因を、(1)鉄鋼や化学工業が中心という産業構造転換の遅れ、(2)企業の本社や工場の首都圏・周辺部等の流出・分散、(3)低所得者層の増加、(4)インフラや既存資産(道路や水道、行政が運営する施設など)の低利用、などをあげています。
それらの背景として、高齢化からくる「大都市特有の需要に対する医療・福祉人材等の不足」と、「都市機能の更新の遅れ」などとしています。
2010年時点では維新政治も、(1)大都市・大阪市の高齢者を支える仕組みが不十分で、人材を確保し、医療・福祉産業を作りあげる必要がある、(2)インフラの老朽化に早急に対処しなければならないという問題意識はあったのです。大阪市を中心とした大阪府の水道管の老朽化は著しく、修理に100年以上かかると言われています。 しかし、2011年から2016年までの大阪府の有効求人倍率の上昇、完全失業率の低下、来阪外国人の増加とそれに伴う開業率の上昇、廃業率の低下を自らの成果とし「戦略」を転換します。ただし、雇用状況の「改善」は日本全体の傾向で、多くを非正規労働者が占めるとともに、福祉・建築分野の求人が多い傾向なのです。 2018年、最新の「大阪府・大阪市の成長戦略」では、大阪の成長を牽引する成長分野として、環境・新エネルギーに代わり健康医療関連産業が位置付けられました。健康医療関連産業とともに、インバウンド(海外からの観光客)を契機としたアジア市場の取り込み強化などの分野を実現するために「2025年 大阪万博」「IR(統合型リゾート)」をあげているのです。 しかし、「健康医療関連産業」が急浮上してきたのは、万博誘致のためで、市民・府民の生活の実情や経済に即したというよりは極めて政治的な理由からです。万博誘致が行われた時点ではそもそも夢洲は候補ではなく、70年に万博が行われた千里会場や花博が開催された鶴見緑地があげられていました。しかし、なぜか2016年に夢洲が候補に上がったのです。どうして夢洲なのか。おそらく、埋め立て地ならカジノを誘致しても反発が起こらないと考えたからでしょう。
予算より膨れあがる万博・IR建設費用
万博が開催される2025年の3年前、2022年には土地の埋め立てを終わらせなければなりません。まずは埋め立て、夢洲までの大阪メトロ延伸、夢洲大橋の拡張、上下水道の整備など、土地造成やインフラにかかる総事業費は950億円。さらに、万博会場の建設に1250億円(国、経済界、大阪府・市が負担)、舞洲駅直結のタワービルの1000億円以上かけた建設も構想されています。あくまで現在の予算なので、膨れあがる可能性があります。
IRの開業は2024年と万博より1年早く、万博予定地の隣接地を埋め立てる予定です。IRの投資規模は9300億円と想定され、年間の売り上げは4800億円、うちカジノは3800億円としています。約8割をカジノの売り上げとしているので、IRはほぼカジノと考えられます。さて3800億円の売り上げは、年間2480万人の来場という予想から算定されていますが、ユニバーサルスタジオジャパンの過去最高入場数1460万人(2016年)などから考えると、かなり無理のある数字です。
地域の中で富が循環する社会へ
福祉・建築分野の人手が不足しているのに万博やカジノに労働力をつぎ込み、上下水道の改修工事に土木技術も人も費用もかかるのに、夢洲を急速に埋め立てようとする。大阪府・市のムダを批判して維新を支持した人たちは、この矛盾についてどう考えているのでしょうか。
カジノの収益は市民に全て還元されるわけではなく、ホテル・レストランなど関連施設に使われることになっています。さらに、海外大手IR企業が万博開催決定時には祝電を送るなど、大阪府・大阪市に接近。IR事業に外資企業が多数参入したら、利益は海外の本社に流出してしまいます。
外貨・カジノ頼りの歪な経済構造を作るより、地場の企業を振興し、地域の中で富が循環する社会に。先進的な医療技術よりも、まずは既存上下水道の整備や高齢者が暮らしやすい町づくりなどの公衆衛生に力を入れる。それこそが大阪府・大阪市が取りえる経済政策なのです。